サイズフリーの圧延のPioneer
精密・多サイクル 圧延システム「てきすん」

誕生前夜

発売当時の製品タグ
▲ 発売当時の製品タグ
 稲守は言う。
「私は、大同の開発力の強さっていうのは、我々開発者の能力如何だけでは語れないと思うんです。なにしろ現場のスタッフに優秀な人が多い。我々の頭で考えただけでは思いつかない、現場の職人的熟練者ならではの勘が、一つの革新的な技術体系を生む上でいかに大切か、〔てきすん〕の開発では特に実感させられました。」
 やがて彼らの開発は、現場スタッフとの絶妙な連携のうえに軌道に乗り始め、ある種の手ごたえが、広がりつつあった。
 そんなある朝のことであった。出勤した稲守を、一人の技術者の、夜勤明けとは思えない明るく弾んだ声が出迎えた。
「ガマさん(稲守のニックネーム)、このサイジングミルは凄いよ!同じ孔型でいろいろやれる!」
 その一言こそが、これまで彼らが開発してきた新たな圧延システムに、とてつもない付加価値を与えるきっかけとなったのだ。
 従来の圧延システムでは、製品サイズごとに孔型を交換して仕上げ圧延を行なっていた。しかし、その方法ではユーザーが要求する任意のサイズを製造するために、多くの孔型が必要となる。型となるロールのコストや、孔型交換の負荷を考えると、多サイズの生産には限界があった。それがもし同じ孔型で生産できるとなれば、ロールにかかるコストが削減され、孔型交換のためのロスタイムを減らすこともできる。つまり異なるサイズの製品を高い寸法精度、最小限のコストとロスタイムで生産することができるようになるのだ。
 技術者達は、現場の勘と長年の経験から、稲守のサイジングミルならそれができると思いついたのだ。このアイデアは、早速採用され、試行錯誤を経て完成をみる。
 こうして、ついに稲守らの目指した、既存のサイジングミルを凌ぐ、画期的にして付加価値の高い新たな圧延装置は実現したのだ。それは稲守ら自身の当初の思惑すら凌駕する、堂々の付加価値を伴ったものだった。
 ここに大同は、多品種、小ロット、多サイクル、精密圧延といった特長を併せ持つ、画期的な圧延システムを、世界に先駆けて手にしたのである。“必要な時に、必要なものを、必要なだけ”圧延する技術…大同が誇る〔てきすん〕の誕生であった。
 余談だが、この〔てきすん〕なる命名は、プロジェクトチームのあるスタッフの奥方が、なんの気なしに提案した“適当な寸法”の略語が、数ある洒落た英名候補を蹴って、正式に採用されたものである。
 

現場の声とともに

バーてきすんミル
ロッドてきすんミル
▲ てきすんの心臓部であるミル本体
上:バーてきすんミル
下:ロッドてきすんミル
 「とにかく現場の人間の声とともに、アイデアがどんどん一人歩きをし始めたというのが実感ですね。」
 そう稲守が語る通り、〔てきすん〕はその後も、現場で生まれるアイデアを吸収しながら改良を重ね、小型圧延、線材圧延とその可能性を拡大していった。
 そして、米国の大手設備メーカー、モルガン社からは、共同開発のオファーを受け、〔てきすん〕の技術を使った高速圧延機を開発する。その海外向けのネーミングでは、パートナーであるモルガン社から、「Rod Tekisun」と日本語名を生かした命名を提案され、〔てきすん〕は、世界的な名前にと成長していった。
 今や〔てきすん〕の技術は、大同の同業他社にも広く採用されるようになった。にも関わらず、〔てきすん〕の先駆者である大同は、今なお強力なアドバンテージを保ち続けているのである。
 インタビューの最後に稲守はこう締めくくった。
「当初、我々のプレッシャーであった既存のサイジングミルを作ったドイツのメーカーをはじめ、技術で大同が世界に勝ったと思っています。これも大同の人の輪、知恵の輪、意欲の輪の賜物ですね。」
 
 
BACK