世界を席巻する環境テクノロジー
クリーンチューブ対応型 銅管焼鈍炉  

Interview 機械事業部
 

 「今まで誰もやったことのない技術で、世界を席巻したい。」
“技術屋”なら、誰もが1度は抱くそんな思いを、果たしてどれくらいの人が結実させられるだろう。
 <クリーンチューブ対応型銅管焼鈍炉>(以下CT焼鈍炉)はその稀有な1例といっていい。開発打診を受けてからわずか3ヶ月という、この分野においては異例に短い期間で成果をあげ、今や“世界標準”になる勢いをみせているのである。
 エアコンや冷蔵庫などに使用されている、地球環境に有害なフロンガスを、環境負荷がきわめて少ないクリーンフロンに代替するためになくてはならないクリーンチューブ。その製造のキーテクノロジーである大同のCT焼鈍炉開発の経緯に迫る。
 

奇妙な出来事

 1993年の春、奇妙なことがあった。異なる3社の大手銅管メーカーから、ほぼ時を同じくして同様の開発打診が寄せられたのである。当然大同の営業窓口はそれぞれ異なり、熱処理炉の設計を担当する宮嶋らのもとに話がきたのも、3件バラバラであった。この時宮嶋は、直感的にある“確信”を持った。
“これは世界を席巻するスゴイ開発になるかもしれない・・・。”
 工業炉メーカーはどちらかといえば客先から仕様が出てはじめて商談がスタートする、“受身的なビジネス”が大半であった。いいかえれば高度成長期〜バブル期までは、ユーザーからの膨大な引合をいかに効率良く受注できるかが勝負だったのである。そんな中で宮嶋は、自らのビジネス交流や海外で得た経験から、
“これからの時代は技術者といえどもマーケティング<市場戦略>を意識した研究開発が不可欠である”
と唱え続けていた。それは時には全くの孤軍奮闘的な主張であったという。
 しかし件の3つの開発依頼に、宮嶋は自らの主張を実践する場を得たと予感した。エアコンや冷蔵庫などの環境負荷を低減するための技術の大きな可能性・・・。そこで他の業務の合間を縫って、独自にこの話の背景と市場性を調べてみることにした。技術者宮嶋自らのマーケティングの実現であった。
 

夢のクリーンフロン(R134a)実用化へ

 1990年代の初めにモントリオールで開かれた国際会議において、オゾン層の破壊、地球温暖化の原因となる従来のフロンガス(R12,R22)を、近い将来全廃するという取決めがなされた。フロンガスはエアコンや冷蔵庫の冷媒として不可欠なものであり、各国の家電メーカーでは、この国際会議の決定を受けて、クリーンなガスを使った地球に優しい新製品開発が必須となっていた。
特に日本の各家電メーカーでは、こうした流れに素早く対応し、クリーンなフロンガス(R134a)への早期代替を打ち出した。 
 このR134aは環境負荷数値が劇的に低く、地球環境に優しいが、これをエアコンや冷蔵庫の冷媒として実用化するには大きな問題があった。冷媒用銅管内の残油と反応し、スラッジ(かす)となって回路内のフィルターを目詰まりさせるのである。
 銅管は、その製造工程上どうしても潤滑油の使用はさけられない。その一方で、スラッジ問題を解決するには、銅管内の残油を完全に除去した“クリーンチューブ”を製作しなければならない。だが直径が数mm〜20mm以上と範囲が広く、しかも製造ラインでは全長が8000mにも達するものまであり、簡単な作業ではオイル除去は不可能である。かといって大掛かりな工程を加えれば、当然最終製品の価格上昇につながり、商品の競争力低下になってしまう。そこで、銅管の製造工程で欠かせない“焼鈍”工程に、管内のオイルを除去する“しくみ”を組込めないかということになった。
 こうして、既に銅管焼鈍炉で多くの実績があった大同に「CT焼鈍炉」開発の打診がきたのである。

 
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