世界を席巻する環境テクノロジー
クリーンチューブ対応型 銅管焼鈍炉

ウカウカすればやられちゃう

 日本企業の環境問題への対応は凄まじいものがある。世界に、あるいは他社に先駆けようと、環境対応製品の開発競争は激化の一途である。そんなこともあってか、「CT焼鈍炉」開発打診は、偶然にもほぼ時を同じくして、3社の銅管メーカーから寄せられたのであろう。
 こうした背景を元に宮嶋が調べたところによると、今後数年の間にクリーンチューブの需要は世界的に増加し、特にいまだ家電普及率の低い中国は巨大市場になる可能性が高い。「ひょっとしたら、世界を席巻できる“エアコン・冷蔵庫用クリーンチューブの銅管焼鈍炉”の開発ですから、大いに“やる気”を刺激されましたね。でもウカウカしていたらヨソにやられちゃう。そこでとにかく全力で早期完成を目指しました。」以来、最初のCT焼鈍炉を納入するまでの約3ヶ月間は、不眠不休といっても過言ではない体制で臨んだという。
管内パージシステム
図1 ▲管内パージシステム
 それではそのCT焼鈍炉のメカニズムについて触れよう。焼鈍工程では、文字通り銅管は加熱されるが、ある温度に達すると管内の油分は気化(蒸発)する。しかし、そのまま冷却したのでは蒸発した油分は再び管内に残存したままになってしまう。そこで高温下で油分が気化している間に還元ガスを勢いよく管内に吹き込んでやることで、還元ガスごと気化油分を吹き飛ばして除去しようというのだ(これを管内パージ工程(図1)ともいう)。
 ところが、なにせ直径数mmで全長が8000mもある銅管である。しかも大量生産のための、自動化が進んだ銅管製造ラインの生産性を落とすことなく、このパージ工程を行わなくてはならない。そんな厳しい条件が大きなハードルとなって立ちはだかったのである。
 

攻めの開発
 
 これをクリアするのに最重要課題となったのが、
コイル状の銅管
図2 ▲コイル状の銅管
〈1〉 高温化で銅管とパージシステムをいかに接続し、その間でガス漏れをなくすか。
 銅管は焼鈍工程に回ってくる時には、コイル状(図2)に巻き取られている。さらに焼鈍炉内では、そのコイル状の銅管が自動的に搬送されてくる。その流れの中で高温・高圧ガスを供給し、ガスが漏れることなく銅管内をパージしなければならない。
  しかも700℃にも達する雰囲気下でのガス供給である。そんな高温化で使用可能なパッキンがあるはずもなく、自ずと金属接触という条件の基で漏れのない理想的な機構・形状、さらには材質を探し出さなくてはならなかった。これには気の遠くなるような試行錯誤が繰り返されたが、その結果パッキンなどの消耗品のないメンテフリーのガス供給機構の開発に成功した。
 次に大きな問題となったのが、
〈2〉 いろいろな管径や長さの銅管内をパージするのに必要なガスの圧力と流量をどうやって見つけだすかである。
 各管径・長さ、さらには各温度におけるパージに必要なガス圧力と流量を見つけだすのに、特殊なプログラムソフトを購入してシミュレーションを行なった。この結果をもとに実験を重ね、その計算データを検証することによってパージシステムの設計に必要な、膨大な基本データを構築することができた。それはたった1つのデータを導き出すのにコンピュータですら数時間は要するほどの難解な(非定常)計算であった。
 これで夢の焼鈍炉の完成がぐっと近付いたわけだが、宮嶋らはさらに攻めの開発を進める。還元ガスは酸化防止のため管内に予め充填されているのだが、これとは違う種類のガスをパージ工程に使用することで、残油がゼロの状態を明確に見極められるようにしたのである。つまり管内ガスの100%の入れ替わりが、すなわち完璧なパージ完了を意味するというわけだ。
 ガスの成分分析装置をシステム内に組込み、その判定記録と〈2〉で得られた膨大なデータを組み合わせることで、この炉で焼鈍・脱脂されたクリーンチューブの、いわば品質証明書ともいうべき確固たる品質保証の“しくみ”を併せて確立したのである。
 

世界シェア90%強

 こうして、CT焼鈍炉は完成を見た。宮嶋曰く“気がつけば開発開始からわずか3ヶ月しかたっていなかった”といった感じらしい。それだけ夢中で取り組んでいたのである。
 果たして3社に納入した炉はすこぶる評判がよく、その後国内外の主だった銅管メーカーから依頼を受け、今ではCT焼鈍炉のシェアは、国内外を含めて90%強を誇る。
 この強さの秘密は、ひとつには独自のマーケティングをふまえ、開発当初から戦略機種と位置付けて、世界に通用するように技術的な完成度を高めたこと。世界初の開発なので、特許を申請して(国内12件、海外10ヶ国)キーテクノロジーの保護をしていたことである。そして先に述べた“品質保証の仕組み”、さらにそれにより、急速に広がった評判が更なる需要拡大を生む重要なファクターになったと言うことができる。
 今後、従来のフロンが全廃となるまでに、さらに多くのクリーンチューブの需要がある。また、中国をはじめいまだエアコン・冷蔵庫の普及率が低い国々では、今後10年で、爆発的な需要拡大がみこまれている。
 最後に宮嶋はこう結んだ。
「世界中の人々が使うエアコンや冷蔵庫が、より環境にやさしいクリーンチューブを使ったものになろうとしています。そのほとんど全てが、私たちが造ったCT焼鈍炉から生まれるんですよ。素晴らしいじゃないですか。」
 ひとつの“夢”を成し遂げた“技術屋”の瞳はかぎりなく輝いていた。
 
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