
デスクトップパソコンのモニター画面が、突如として乱れるといった経験をお持ちの方も少なく無いであろう。例えば、隣接したパソコンの電源が入るだけで、CRTモニターの画面はゆらめいてしまう。
これが、もっと莫大な磁気が発生する環境になると、モニター障害はさらに深刻になる。特に精度要求の厳しい作業を行う場合は「仕事にならない!」ほどであるという。大同の磁気シールド技術の開発は、そんな”作業者達の悲鳴“に端を発している。
その”悲鳴“は、1986年、市場開発部(現新分野開発センター)に着任して間も無い、伊丹をはじめとする開発チームの元に寄せられた。とある製造機器メーカーが先端の産業機械を開発したのだが、その機械の発する磁界は700ガウス(※1)にも達し、近くのCRTモニターはおろかフロッピーディスクなどにも深刻な磁気障害が発生してしまうというのだ。
伊丹らは、独自の調査を元に、かねてからしたためていた開発テーマの一つであった磁気シールドに取り組むことになった。今に至り自他共に認める、”ミスター磁気シールド“伊丹の、最初の足跡である。
「私の着眼はパーマロイでした。パーマロイは透磁率(※2)の非常に高い合金です。これを箱型の覆いにしてやれば、大半の磁気は透磁率の高い覆い部分を通るので、内部は磁気の影響を大幅に軽減できるのです。」
伊丹らはこの方式をすぐに実用化し、磁気シールドBOXとして販売を開始する。
翌1987年には、磁気シールドBOXは、様々な磁界現場からの引き合いで、百数十組の販売実績を残す。この手の開発製品の滑り出しとしては、異例の成功といっていい。伊丹の開発者転身は順調に功績を伸ばしていくかのように見えた。
(※1)ガウス:1平方センチメートルあたりの磁力線の数。数値が大きいほど磁力が強くなる。
(※2)透磁率:材料の磁束の通りやすさ。
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