新発想がかなえる画期的新鋳造設備
誕生!大断面鋳造機PHC

Interview
 
    
    

大断面鋳造機PHC
 2004年7月…またひとつ、特殊鋼製造における夢の技術が誕生した。
  世界を凌駕する大同の連続鋳造設備群。その中に新しく名を連ねる新鋳造設備とは、大断面鋳造機“Promising Hybrid Caster”
  “将来有望な多機能鋳造設備”という意味を刻むその名の通り、従来の連続鋳造とインゴット鋳造の機能を融合するという新発想なくしては完成し得なかった、両者のメリットを兼ね備える夢の鋳造設備である。
  今回は、歩留向上、CO2排出量の削減、そして飛躍的な品質向上をかなえる、世界にも類を見ない画期的な鋳造設備、“大断面鋳造機”開発の経緯を追う。
 

頂点からの新たなる挑戦

 PHC以前、大同は既に特殊鋼の連続鋳造で頂点を極めていた。
 大同が誇る連続鋳造技術の歴史。それは、特殊鋼の大量生産時代をリードするパイオニアとして、1980年、特殊鋼専用連続鋳造機(湾曲型)を完成させたことに始まる。
 さらにその12年後、1992年には、世界で唯一の垂直式丸型断面連続鋳造機(以下No.2CC)を完成させ、大同製母材の優れた品質と高い生産性は世界に誇るものとなる。
「No.2CCを超える連続鋳造設備は現れないだろう…。」
 この比類なき設備の建設から稼動までに携わった天野は、そう強く実感していた。しかし、そのNo.2CCからほどなくのこと。
 日夜、効率的な製鋼プロセスを練り、特殊鋼製造の将来計画を思案する天野のもとに下った指令は、またしても「鋳造システム」の開発。それはつまり、No.2CCとは別のアプローチで、世界を凌駕することのできる新鋳造設備の開発を意味していた。
 求められるのは、目覚しい活躍ぶりを見せる既存の連続鋳造機と並ぶ、価値ある設備であり、それは新たなニーズに応える鋼を生み出すものでなくてはならない。そこで天野は、連続鋳造だけでなく、伝統的な鋳造法「インゴット鋳造」に着眼点を置く。
 粗鋼生産において確かに飛躍的な効果を発揮する大同の連続鋳造設備ではあるが、それは
“万能”とは異なるものである。これまで大同では、粗鋼生産量の70%を連続鋳造により生産し、残りの30%はインゴット鋳造に頼っていた。インゴット鋳造は、連続鋳造に比べ生産性の面で劣るものの、小ロット品や、大型製品への対応力、また偏析が大きい鋼種における内部品質の安定確保に有利だというメリットがある。
 「連続鋳造の生産性とインゴットのメリットを併せ持つ新しい鋳造設備が出来れば…。」
 実現すれば、それはまさに夢の新鋳造設備の完成となるであろう。既存設備の欠点をカバーするための単なる改良ではなく、完成された異なる設備の機能を融合し、さらに進化させようというかつてない構想のもと、天野の率いる新プロジェクトが遂に動き始める。
 

原点回帰の効力

 いまや特殊鋼製造の“花形”技術となった連続鋳造とは逆に、インゴット鋳造は、過去の技術と見られる向きがあり、もはや“死語”に近い存在とされていた。しかしそれは、天野らの手掛ける画期的な新鋳造機の原点であり、すべてはこの原点を顧みることから始まった。
 天野の描いた新鋳造機の基本デザインは、プロジェクトとして社内での正式な認可を受けた後、具体化に向け見直しが図られた。既存設備の融合という基本コンセプトのみを頼りに描かれた青写真は、実際に具体化する上で様々な課題を突きつけられることとなる。
「これまでの連続鋳造やインゴットに勝る、クリーンな鋼を造るために足りないものは…。」
 プロジェクトの方向性を左右するこの問いの答えを探し求めるうちに、一つの新たな疑問にたどり着く。
「インゴットにはどうして一部分偏析の良い所があるのだろう…。」
 その答えを見出すべく、天野らは1年の歳月をかけて徹底的にこの過去の技術を研究する。その結果、目指す鋼を生み出すための条件がピックアップされた。
 偏析の少ないクリーンな鋼を生み出すためには、鋼塊の長さを短くし、頭部と底部の温度差を大きくする必要がある。しかし、新鋳造機にとって、従来のインゴットのウィークポイントである生産性をカバーするためには、大型の鋼塊を用いることは絶対に譲れない。鋼塊のサイズによる調整が不可能となると、上部と下部の温度差を生み出す特別な仕組みが必要となるのだった。
 ここで、新鋳造機にはトップヒーター装置を搭載することが計画に上がる。これまでのインゴットでは、鋳型にフタをし“保温”することで頭部の温度を高める工夫がされていたが、新鋳造機ではより積極的に温度勾配を生むための“加熱”が必要だと天野らは考えた。そこで、鋳込み終えた後の鋼塊を静置凝固させる段階で、頭部から加熱し、巣ができるのを防ぎながら均一に固めていこうというのである。
 この時期、天野らにとって強力な助っ人となる人物が現れる。天野らが目指す装置には、プラズマ加熱により鋼塊の温度差を厳密に制御できる高度な機能が必要である。これを実現するためには電気分野を専門外とする天野らだけでは手も足も出ない。電気分野のエキスパートの助力が必要不可欠なのだが…。
 このとき、天野らに手を差し伸べた鈴木は、まさにエキスパートの名にふさわしい男であった。計画を聞いた鈴木は、迷うことなくこう告げた。
「天野さん、やるなら徹底的にやりましょう。」
 この一言により、プロジェクトは実現に向け加速していったのである。
 
 
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