
揺るぎない自信を持って新鋳造機の立ち上げを迎えるために、天野らには果たすべき課題がまだ一つ残されていた。設備の安全対策である。せっかく創り上げた画期的な新設備を安全性の高い設備として稼動させるためには、万全の体制を整える必要がある。
この安全対策において、大事なことが2点あげられる。一つは、万が一設備に異常が起こった場合、即座にラインをストップできる厳重な対策をとること。そしてもう一つは、些細な変化でラインが無駄に停止してしまう厳重すぎる対策にならないこと。
矛盾して見えるこの2つのポイントは、天野がこれまで、様々な設備を稼動させてきた経験の中で得た教訓である。
「どんなに安全性の高い設備だといっても、実際に危険にはつながらないような変化まで察知して、そのたびにストップしていたのでは使い物になりませんからね。」
天野はこの教訓を、ある若いスタッフに語り継ぎ継承してゆく。現場の一切を任せていたこの若者には、今後の設備の稼動を大きく左右する安全対策すらも一任した。まだ経験の乏しい若いスタッフに、あえて重大な責任を負わせ、自分は現場ではサポート役に徹する。この人材育成の方法もまた、天野自身の経験で得た教訓である。
「No.2CCのプロジェクトでは、若い私に上司が現場を任せてくれました。その時感じたやりがいやプレッシャー、やり遂げた自信があって今の自分があると感じています。」
そして、若き日の天野と同じく大プロジェクトの一端を任されたスタッフは、天野の思惑通り夢の鋳造機と共に大きく成長していた。
数々の挑戦の中で育まれてきた技術力。次代を担う若い人材へ脈々と受け継がれる大同魂。その両者を礎に得た新発想がかなえた、かつてない新鋳造設備”Promising Hybrid Caster“。その名には、設備の今後の活躍と、進化を続ける大同の明るい未来がしっかりと刻まれているのである。 |