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“失われた10年”。バブル崩壊後、経済停滞が長く続き、発展に乏しかったこの時期をそう呼ぶことがある。あらゆる手を尽くしても状況が好転するには至らず、苦しい時代であったことを指すこの言葉は、大同の歴史にも暗い影を落としたといえる。
福沢桃介が特殊鋼という未知の領域に挑み、スタートした大同創業期。石井健一郎が、激動の時代に翻弄されながらもイバラの道を必死に歩み、業界の発展に貢献した特殊鋼黎明期。そして、自動車時代の到来と共に産業として軌道に乗り、ゆるぎない価値を獲得した成長期を経て、訪れてしまった“失われた10年”。その暗い時代を静かに耐え、ようやく出口への光を見出そうとしている今、果たして大同はどのような進化を遂げるであろうか?
「特殊鋼にとって、バラ色の未来が待っている。」
現大同特殊鋼社長、小澤正俊は、大いなる期待と希望をもって、そう未来を見据える。大同の歴史を創業者と中興の祖という2人のキーマンを中心に振り返ったシリーズの最後となる今号では、小澤の目を通して語られる大同の未来ビジョンを辿り、大同が遂げるべき進化のカタチを探る。 |
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「2015年や2025年の世界は一体どうなっているのだろうか?」
いま、この素朴な疑問こそが、企業の進化のカギを握っているといえるのかもしれない・・・。
例えば、携帯電話やパソコンといった、エレクトロニクス分野での驚異的な技術進歩と普及率の向上、また、地球規模での深刻な環境汚染に対応するための環境技術の発展。“遠い未来”だと思っていたその社会に、私たちは、ある意味、予想以上のスピードで接近してしまった。この“失われた10年”の間には、多くの企業が未来を明確に思い描く余裕すら奪われていたといえるが、その暗くて長いトンネルを抜けようとする今、突然に“10年後の未来”が現実となってつきつけられる形になったのである。予想を伴わない未来とは、まさに未知の世界である。この未知の世界に挑むためには、再び明確に未来を予想するチカラが重要な意味を持ってくる。
“先を読むチカラ”、それは大同の原点であり、伝統である。創業者、福沢桃介は、当時無謀といわれた水力発電に着眼し、さらにはその余剰電力を活かした国内初の特殊鋼製造までも見事成功に導いた。石井健一郎は、モータリゼーションの日本到来を予見し、大規模な一貫製造拠点を築くことで業界をリードし、飛躍的な成長をかなえた。緻密に状況を分析し、確信に近い推測をもって大胆に未来に挑む。そんな彼らの先見の明は、大同のDNAとなって継承され続けている。そして、現在、“特殊鋼バラ色の時代”を迎えるにあたって必要となるのは、やはりこの先見の明だと大同は考える。
小澤は、社長就任後まもなく、大同社内に「NEXT10研究室」という名のいわば未来研究室を設けた。ここでは、特殊鋼という枠にとらわれず、広く10年後の社会を予想し、明確に未来のニーズを描き出そうという研究が行われる。未来予想となると、まるで、SF小説を空想するかのごとく、雲をつかむような研究になるのではないかという懸念が浮かぶが、そんな未来研究を成功に導くには、一体何が必要か?この問いに小澤は、2つの条件を挙げる。
「ひとつは研究開発費です。資金面でのバックアップをまずは充分に確保してやらなければならないでしょう。それから、緻密な分析を行い、裏づけのある未来予想図を描くことが重要でしょうね。」
その言葉通り、資金面では実際に、従来の研究開発費から50%アップを図り、全社的な取り組みとして技術開発・商品化の加速に尽力している。
そして、すでに様々な角度から未来を掘り下げ、“先読み”かつ“深読み”を実践する研究を展開しており、その中で浮かび上がってきたのが、3E(Ecology・Economy・Energy)という近未来の社会のニーズを示すキーワードであった。 |
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3Eとは、Ecology―環境への配慮、Economy―省コストへの配慮、Energy-省エネルギーへの配慮という3つの社会的なニーズを指す。
そして、この3つのニーズの実現に、あらゆる分野で貢献できる夢の素材、それこそが特殊鋼なのである。この特殊鋼の持つ大いなる可能性こそが、小澤が“特殊鋼にとってバラ色の時代到来”と将来を予見する所以でもあるのだ。その特殊鋼の可能性は、単に希望的観測のもとに語られているわけではない。大同自身が世に送り出した製品の社会における高い貢献度という実績があるからこそ、明るい未来を今、予測しうるのである。
例えば、自動車の分野では、常に部品の小型化・軽量化・高性能化が求められるが、こうした要求に応える自動車部品を提供することで大同は自動車の進化に貢献してきた。
最新のディーゼルエンジンに対応し、自動車の低燃費化に一役買うコモンレールや、エンジンの機能性を飛躍的に向上させるターボチャージャーなどはその一例である。そして、自動車に限らず、医療・エレクトロニクス・環境事業など多彩な分野で特殊鋼の可能性を最大限に発揮しながら、進化の芽を培ってきたのである。
こうした大同製品の活躍を考えても分かる通り、近年、特殊鋼が果たす役割への期待は大きくなっている。社会のイノベーションに貢献する価値ある材料として認知されてきたといえるのだ。
Edelstahl(エーデルシュタール)、ドイツ語では特殊鋼を“尊い鋼”の意味を持つこの名で呼ぶが、真の意味で、その名にふさわしい “尊い鋼”としての価値を獲得しつつあるといえるであろう。
こうした社会の期待を受け、小澤は現在、“材料開発世界一の企業へ”という目標を掲げ大同を率いる。大同の長所と言える開発力を活かし、さらに強化することで、NEXT10研究室がはじき出す未来像に必要な素材、未来を導く材料を世界に先駆けて創出できる企業へ進化していこうというのである。
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