環境リサイクル設備―
PRIME(プライム) WITH YOU Vol.58 平成19年秋号掲載

 
大同特殊鋼 知多工場 原材料室 山内 貴司 大同エコメット 知多事業所 技術設備グループ 若菜 努
大同特殊鋼 知多工場 原材料室 山内 貴司 大同エコメット 知多事業所 技術設備グループ 若菜 努

 社会経済に大きな影響を与える原材料価格の高騰、そしてますます重要視される地球環境問題。いま、ものづくりの現場に立ちはだかるこの大きな問題を前に、大同は一筋の光となる設備を完成させた。大同特殊鋼知多工場―常に業界をリードする革新的技術の発信拠点となってきたこの工場で、ゼロエミッションの一環として、画期的な環境リサイクル設備“PRIME”が稼動を開始している。有価金属の効率的な回収と、副産物ゼロの製造プロセスを実現し、まさにECOLOGY&ECONOMYという時代の2大ニーズに応える夢のリサイクル設備。鉄スクラップのリサイクルを事業の柱とする大同特殊鋼と、そのノウハウを進化させ環境リサイクル技術のスペシャリストとして活躍する大同エコメットがタッグを組んで実現させたこの設備の開発の経緯を追う。


2つの出発点

 “PRIME”の開発の物語は、2つのスタート地点から始まった。当時、大同特殊鋼鋼材技術部に所属していた山内は、あるとき経営陣から大きな課題を課せられる。製造業の分野では、軒並み高騰する原材料価格が悩みの種というご時勢に、大同も例外ではなくその点で頭を痛めていた。そこで、山内にかけられた期待は、社内の製造過程で発生する副産物を資源として有効利用できないかということであった。当然、それまでにも副産物の再利用は行われていたが、原料として再利用できるのはおよそ半分という割合。この再利用率をさらに上げて、ステンレス、一般鋼を含む副産物も再資源化できる方法を検討する必要があったのである。山内は、現状の製造過程からこのニーズに応えるための課題をピックアップし、独自に新たな設備の構想を練り始めていた。
 一方でそのころ、大同エコメットでは東京で開催された環境展をきっかけに、あるプラントメーカーとの出会いを果たしていた。大同エコメットでは、それまでも独自の優れた環境リサイクル事業に取り組んできたが、工場ゼロエミッションに向けて常にさらなる技術革新を目指していた。そしてその革新的環境技術を察知するアンテナに飛び込んできたのが、プラントメーカーが展示していたペレガイアとよばれる造粒のための設備であった。この情報を大同特殊鋼知多工場の関係者に話し、なんとか現在埋め立て処分されている副産物を再資源化できる設備を作ることはできないかと提案をもちかけていた。そして、この提案が新たな設備の実現に向け独自に社内の情報収集に当たっていた山内の耳に届いたのである。有価原料の回収と環境負荷低減のためのリサイクル・・・“ECONOMY”と“ECOLOGY”という2つのニーズに応える設備のヒントがこの時両者に与えられたのである。これを機に、山内がプロジェクトリーダーとなり大同特殊鋼と大同エコメットのコラボレーションによる新しい環境リサイクル設備の開発が始まった。


“鋼の団子”ができるまで

 「なんでもない物に見えるんですが、この団子をつくるのが、なかなか難しいんですよ。」
 山内らのプロジェクトにともに参加した大同エコメットの若菜は、開発に至るまでの苦難の道のりを振り返りながらそう語った。革新的な環境リサイクル設備であるPRIMEとは、ひと言で言えばこの“鋼の団子”をつくる設備なのである。
 知多工場での特殊鋼製造過程で発生する副産物には、スケールと呼ばれる酸化鉄のかさぶたのようなものと、ダストと呼ばれる金属を含む塵埃がある。これらの副産物をこれまで以上に効率よく再利用するためには、製造工程で集塵機により再びごみとして吸い取られることのない様に、ダストやスケールを粉状ではなく団子状にすることがひとつの大きなポイントであった。この団子をつくるための方法には、副産物をプレスして固めるブリケットという方法と、微粒状の副産物を水で固めて粒状にするペレットという方法の2種類がある。
 ここで、山内らは後者のペレットと言う方法を選択した。その選択の鍵となったのが、すでに山内らのプロジェクトチームが注目していたプラントメーカーの設備である。この設備は、通常別々の設備で行う材料の粉砕、粉砕した材料の混錬、そして混ぜたものを転がして団子状に成型していくための造粒過程をすべて1台で行えるという大きなメリットを持っていた。これにより、設備コストやランニングコストを抑えることができる。また、この設備を採用することによって、知多工場で発生する副産物処理をまかなえるだけの高い処理能力が期待できると考えたのである。
ペレガイア
ペレガイア
 山内らは、まずこの設備を軸にして新設備の基盤を整えた。あとはスケールやダストを設備にかければよいだけかと言うと、ここからが若菜の語る“難しい”ところである。なにしろこの「ペレガイア」はメーカーにとっても誕生間もない技術であり、ましてや初めて鉄鋼分野の設備を手がけるということで、手探りのスタートだった。しかも、大同では多彩な鋼種を取り扱い、様々な製品を製造しているために、そのプロセスで発生する副産物の種類も多種多様である。この様々な条件の副産物を水と混ぜて、一定の大きさの“団子”を作らなくてはならない。そのためには、ダストとスケールそして、水分の配合率を、想定されるすべての副産物の条件に合わせて試験することが必要であった。若菜らプロジェクトのメンバーは、工場内のあらゆる場所を這いずり回るようにして、サンプルとなる副産物を収集しては配合試験を繰り返した。ニーズの高い新設備に向けての作業であるから、どんなに緻密なこの試験工程にもそれほどのんびりと時間をかけてはいられない。山内を中心にメンバー達は限られた時間の中で必死に答えを探り、ついにスタートから1年足らずで一般鋼、ニッケル系ステンレス、クロム系ステンレスの材料となる3種の“鋼の団子”を作り出すための配合率を見出したのである。


 
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