製品の長寿命化を可能にする表面改質技術
PPWシステム プラズマ粉末溶接法

総合力で完成を見たPPW

 次々に難問をクリアしていった竹内だが、バルブが小さい場合の精度上の問題にぶつかり、製品の不良率は2〜5%にものぼった。当時を振り返り、竹内は語る。「不良率については泣かされました。バルブメーカーさんへは、操業が終わった夜に試験機を稼動させに行く。ひと晩機械を動かした明くる朝、『不良品が多すぎる。これではまだまだ使えない』と呼び出される。夜も朝もなしで、大変なことでした」。
 そこで、システムの熱集中性と電流制御の精度を上げて、再現性を良くすると同時に、粉末材の品質を見直し、安定した供給ができる粒の大きさと形状を確立することなどで、当初5%の不良率を、0.1%にまで低減させることに成功する。「PPWは特許申請が200件近くもあることが表すように、『溶接材料技術』『粉末製造技術』『メカトロ技術』という大同の技術力が結集して可能になったものなのです」と、竹内は総括する。
 数年来の苦心が結実し、バルブの表面改質を全自動化するシステムはすべて完成を見た。研究開始から4年後の85年、竹内のPPW開発チームは社内の特別表彰を受賞する。現在、PPWによるバルブの国内生産量は月産500万本近くにもなっている。
 PPWは、この表彰を一応の区切りとして、自動車から次なる新たなステップへと踏み出していく。
 

枠に囚われない発想が生んだ可能性

 エンジンバルブの製造で実績を得たPPWは、エネルギー関連のマーケットへとその応用分野を拡げていく。石油採掘の管や、ケミカルプラントの金属管などの表面改質である。
 例えば、地下深く掘り下げる採掘管は、地中からの硫化水素の影響を受け、著しく腐食が進む。そこで管の内側に、耐食性、耐久性のある粉末材料をコーティングし、管の寿命を飛躍的に高めようというのが、PPWの次なる試みだったのだ。管の寿命・生産効率がアップするということは、エネルギー効率のアップつまり環境性が高くなることを意味する。PPWチームには、自らの技術をエネルギー分野で応用して、エネルギー・資源問題の見地から環境へと貢献できるとの確信があったのである。
 そして、竹内はエネルギー分野進出への足掛かりとして、ロシアはカスピ海北岸のアストラハンの石油採掘現場に飛ぶ。かの地で、PPWを用いた管の耐久試験を2年間に渡って続け、実用に向けた確かな手応えを得ていく。
 98年には、ごみ焼却プラントの伝熱管の実用化に成功。高温・高圧にさらされ、1年程度しか使用できなかった管の寿命を、3年以上へと飛躍的に向上させる。さらに99年には、オランダの石油メーカーとエチレン生産用の反応管:PTT(PPW・テクノロジーチューブ)の共同開発に成功し、マスコミ誌上を大いに賑わすことになる。エチレン精製過程では、副産物として反応管内部に強力な炭化物が付着するため、定期的にプラントの操業を中止して大規模な清掃を行うことになる。そこで、反応管の表面改質を行い、炭化物の付着を大幅に抑制するのである。このPTTにより、従来3〜6年だった反応管の寿命が、6〜10年にアップするという。
 PTT開発時には、自動車で培ったノウハウが存分に活かされ、クライアントが要求するレベル以上の提案を即座に行えたほど、PPWは充実をみせている。竹内にとっては、多年に渡る開発のなかで、最も得意な瞬間ではなかったか。試作と改良に明け暮れ、ようやく実らせたPPWについて、竹内はこう語ってくれた。「PPWの将来性は非常に高い。エチレンを始めとするエネルギー関連は、市場として今後も有望です。また、耐磨耗・耐熱・長寿命という効果から成型用金型、農業用の掘削機など、PPWの応用は限りないと考えられます。セラミックスなど、粉末にできる物は、どんな物でも溶接できるのがPPW技術なのです」
 自動車製造の一端を担う技術からスタートして、いまや21世紀のエネルギー産業の一端を担うかもしれないPPW。従来の溶接の枠組みに囚われない可能性を追求した、フロンティア・スピリットがここにある。
 間もなく定年で竹内は社を退職するが、大同でも今後、この技術者のフロンティア・スピリットを引継ぎ、より高い次元にまで発展させていくという決意を新たにし、本号の幕を閉じさせていただく。
 
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 エチレン熱分解路管PTTカタログ(52KB)