大同特殊鋼株式会社(本社:名古屋市、代表取締役社長:清水哲也)は、半導体製造装置などに使用される高耐食材料として、「DSA D22」を新たに開発しました。
DSA D22は、高耐食材として広く採用されているDSALOYTM 22(Hastelloy® C-22® 相当材)と同等の耐ガス腐食性を有しながら、省合金化を図り、被削性を大幅に向上させたニッケル(Ni)基耐食合金です。本合金により、半導体製造装置・部品メーカー各社が直面する「高耐食材料の採用拡大」と「部品コストの低減」を両立し、お客様の課題解決に貢献します。
※DSAおよびDSALOYは大同特殊鋼株式会社の登録商標または商標です。
※HastelloyおよびC-22はHaynes International, Inc.の登録商標です。
1.開発の背景
(1)半導体需要と製造工程における耐食材の要求
AI向けデータセンターの急拡大やデジタル社会の進展を背景に、世界の半導体需要は急速に拡大しています。2025年の半導体製造装置市場は前年比15%増の約1,351億ドルに達したと報告されており※1、先端ロジック半導体(2nmノード・GAA構造※2)や、AI需要の拡大を背景とした高帯域幅メモリー(HBM)をはじめとする先端メモリー向けの設備投資が市場を牽引しています。
こうした先端ロジック半導体や先端メモリーの製造工程においては、ドライエッチングやCVD(化学気相成長)などの各工程で、ハロゲン系の強腐食性ガスが使用されます。回路の微細化が進むほど欠陥の許容レベルは厳しくなり、接ガス部品の腐食に起因するパーティクル(微細な異物)の発生や微量の金属元素の混入が、製品の品質や歩留まりに直結します。そのため、ガス供給ラインを構成するバルブ、配管、継手、フィルター、マスフローコントローラーなどの接ガス部品には、より一層高い耐食性が求められる傾向にあります。
(2)SUS316Lを上回る高耐食材ニーズの高まり
ガス供給ラインを構成する接ガス部品には、当社のCLEANSTARTM※3をはじめとする高清浄度SUS316L材が広く採用されています。しかし、当社の研究(大同特殊鋼技報 第95巻第2号、2024年)※4によれば、SUS316Lはハロゲン系ガスの一種であるフッ化水素ガス環境下では表面に腐食が生じ、その反応は高温ほど顕著になることが確認されています。そのため、特に高い耐食性が求められる用途では、SUS316Lを上回る耐食性を有するNi基耐食合金の採用が少しずつ広まっています。なかでも、Hastelloy C-22およびその相当材(当社商品名DSALOY22)は、高いクロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)含有量により、酸化性および還元性の腐食環境に対して優れた耐性を示すため、接ガス部品用の材料などに採用されています。
(3)高耐食材の適用における課題と「DSA D22」の提案
一方でDSALOY22は、SUS316Lと比較して材料コストが高く、また熱伝導率が低いこと・高温強度が高いことから、切削工具の摩耗が著しく、被削性に劣ります。そのため、採用にあたり、部品コストが増大することが課題となっています。
このような背景から、当社はより採用しやすい素材として、DSALOY22と同等の耐ガス腐食性を有しながら、省合金化を図り、被削性を大幅に向上させたNi基耐食合金「DSA D22」を開発しました。
2.開発品「DSA D22」の特長
耐ガス腐食性の確保に必要な成分を精緻に見極め、省合金化を図った合金設計により、高い耐ガス腐食性と良好な加工性という、従来はトレードオフの関係にあった二つの特性を両立させています。
(1)高耐食材DSALOY22と同等の耐ガス腐食性
250℃の各種ハロゲンガス(HF、HCl、HBr)に5時間暴露した際のハロゲン成分の侵入深さを評価した結果、いずれのガス種においても、本合金の侵入深さはDSALOY22と同等のレベルです。
(2)DSALOY22よりも良好な被削性
ドリル寿命試験および旋削試験において、本合金はDSALOY22と比較して良好な被削性を示しました。切削工具の摩耗が大幅に抑制されることで、工具交換頻度の低減と加工速度の向上が期待され、部品加工コストの削減に貢献します。
3.主な用途と供給体制
本合金は当社のCLEANSTARやDSALOY22と同様に、エッチング装置や成膜装置などのガス供給ライン、バルブボディ、フィルターハウジング、継手やマスフローコントローラーなどの接ガス金属部品といった、腐食性のガスが使用される各種前工程装置全般への適用を見込んでいます。
また、当社が供給するクリーンスターやNi基合金と同様のサイズ・形状の供給が可能です。詳しくはお問合せ下さい。
4.今後の取り組み
当社は2024年12月より、半導体製造装置向け高級鋼の増産を目的として知多第2工場(愛知県知多市)に真空アーク再溶解炉(VAR)の増設を段階的に進め、高清浄ステンレス鋼およびNi基合金の生産能力を増強しています。
今後はさらに、本合金を含む半導体製造装置向け高耐食材料の生産体制を強固にし、拡大する先端半導体市場のニーズに応えてまいります。また、2025年4月に知多第2工場に導入した高温ガス腐食試験装置と、本合金の開発を通じて蓄積した知見を継続的に活用し、装置・部品メーカー様との共同評価などの更なる検証を通じて、お客様の材料選定を技術面から支援してまいります。
当社は今後も、素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けるという使命のもと、半導体製造装置に不可欠な高機能材料の開発・供給を通じ、半導体産業に貢献していきます。
| 製品名 | DSA D22(ディーエスエー ディー22) |
| 特許 | 出願中 |
用語説明
※1 装置市場規模
SEMI(国際半導体製造装置材料協会)発表(2026年4月)に基づく。
※2 GAA構造
Gate-All-Around(ゲートオールアラウンド)。ゲートがチャネル(積層したナノシート)の全周を囲む次世代トランジスタ構造。従来のFinFETより高いゲート制御性(静電制御性)が得られ、省電力・高性能を両立する。
※3 CLEANSTAR
当社が製造している、半導体製造装置用クリーンステンレス(SUS316L):クリーンスターです。
CLEANSTARおよびクリーンスターは、大同特殊鋼株式会社の登録商標または商標です。
クリーンスターシリーズの紹介ページへ
※4 腐食挙動
清尚暉・小柳禎彦「フッ化水素ガス中におけるSUS316Lの腐食挙動」電気製鋼 第95巻第2号(2024年)pp.85-89。
以上